春待つ花のように
 ノアルは生まれてからずっと宮殿で過ごしていたが、こんな何気ない場所に抜け道があったなんて全く知らなかった。

「ここを行けば、スラムと別荘地の間にある川に出ます」

 シェリルがまわりを気にしながら口を開く。この口ぶり。彼女はここに残るつもりなのだろうか。

 自分だけ逃がして、彼女はあの争いの中に入っていくというのか。

 真っ暗な階段を見つめるノアル。階段に降りれば、無事に宮殿からでられる。

 ノアルは後ろを振り返ると、カインとテーラが入ってこちらに近づいてくるのが見えた。

「母上!」

 ノアルはそう叫ぶと、テーラに抱きつこうとする。しかしテーラは彼の手を振り払うと、シェリルの肩を掴んだ。

「リラが…。リラがまだ…」

 泣きながらテーラはシェリルに言う。

 ノアルがカインと目を合わせると、カインが瞳を閉じて首を振った。
< 81 / 266 >

この作品をシェア

pagetop