春待つ花のように
「王妃だけで手一杯で…申し訳ありません」

「いや…ガーネは?」

「ロマ様に…」

 ノアルは下唇を噛み締めると、壁を思い切り叩いた。

「くそっ!」

 ロマに裏切られた。父が信用していた部下だったのに、その彼に父を殺され、仲間たちも…。

 ノアルは右手に持っている剣を握り締めると、意を決したようにグッと顔をあげた。

 もう迷わない。ここから逃げてはいけないのだ。

「カイン、シェリル、母上を頼む」

 ノアルは剣を鞘から出すと、来た道を引き返した。


















「イブ、ローラは?」

 部屋から店に降りてきたノアルは、開店の準備をしていたイブに声をかける。

「え? ノアルの部屋にいるんじゃないの?」

 イブは驚いた顔をした。昨日の閉店直前まで、ローラはいつも通りだった。

 骨格のいい男に声をかけられてから、急にそわそわし出して閉店ととも後片付けをイブに任せて外に出かけていってしまった。
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