春待つ花のように
「ローラは二階にいるのか?」

「さあ?」

「二階に上がらせてもらう」

 カインは立ち上がり、階段に行こうとしているノアルの手首を掴むと横目で彼のことを見つめた。

「ノアル様、ロマが税金の値を上げたのは知っていますか? 今までの倍以上…そして払えない者には命がその代償に…。最近は、いえ…テーラ様が亡くなってからのロマはバルト国王より横暴になったとか…」

「それで…?」

 ノアルは階段を真っ直ぐ見つめたまま、カインの手を振りほどこうとする。

「『これで国民が幸せになるのなら、それでいいじゃないか』…十年前にノアル様が言った言葉です。本当に幸せになったのでしょうか?」

 彼の言葉にノアルは瞳を閉じた。

 確かに十年前に言った言葉だ。母親にテーラに言われた言葉を、彼らにも伝えた。

 復讐に燃えようとする自分を落ち着かせるために、テーラが言ってくれた。一番、傷ついているのは彼女なのに。

 そう気づいたのは、たいぶ大人になってからだった。
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