愛かわらずな毎日が。
「おまえは、どうしていつもそう、…………」
言いかけた言葉をのみ込んだ代わりに大きなため息を吐いた福元が、人さし指で耳の後ろをぽりぽりと掻いた。
「なんだよ。そんな面倒くさそうな顔するなよ。
……まぁ、手っ取り早く社内で、と思ったけど。
おまえが乗り気じゃないなら、他をあたってみるよ」
「……いや。社内がどうとか、そういうことじゃなくて…。その件に関しては、べつにおまえに心配してもらわなくてもいいんだよ」
福元がグラスの縁を親指でなぞりながらそう言った。
「おいおい、そんなさみしいこと言うなよ。
心配するのは当然のことだろう?」
「当然、ねぇ」
俺の言葉を聞いた福元は、手元のグラスに視線を置いたまま小さく笑った。
「早く家庭を持ったほうがいい。
毎日のように遅くまで仕事して。心も体もボロボロのおまえが、誰もいない真っ暗な部屋に帰るのを想像すると、」
「ははは。そんな想像しなくていいから」
「じゃあ、逆に想像しろ」
「何を?」
「疲れて家に帰ると、可愛い嫁さんが『おかえりなさい』って出迎えてくれて。
嫁さんに似た、これまた可愛い子供たちが『パパおかえりー』って抱っこをせがむところ。
なっ?たまんないだろ?結婚ってのは、いいもんだろ?」
「……よく言うよ。毎晩のように飲み歩いてるせいで締め出されたくせに。おまえが言っても説得力ないんだよ。……っていうか。マイコちゃんがかわいそうだ」
福元が呆れ顔でグラスに口をつけた。