愛かわらずな毎日が。
私の腕を掴んでいた手の力をゆるめると、空いてる方の手で字を書く仕草をした彼。
「書くもの、借りてもいいですか?」
「え……?あ……、」
訳も分からず制服のベストの胸ポケットにさしてあったボールペンを手に取った私は、そのままそれを差し出してしまったのだ。
「ちょっ、……」
彼は私の左手首を掴むと、突然、手のひらに数字を書きはじめた。
「なっ…、なにして…っ」
慌てて手を引っ込めようにも、手首はがっちりと掴まれていて、彼にされるがままの状態だった。
「はい。これ、俺の携帯番号。よかったらかけてね」
「…………え、」
ボールペンを差し出しにっこりと笑う彼に、不覚にも私の胸がきゅんと鳴く。
ちょっと待って。
なにかの間違いでしょう?
こんなの。
こんなの、って。
「じゃあ、仕事頑張ってね」
そう言って歩き出した彼の背中と、手のひらに残された数字をかわるがわる見ていた。