愛かわらずな毎日が。

「そしたら福元さんは、変わったお願いだね、って言って」


「…………」


「憶えて……ない、ですか?」


「…………ごめん。今、思い出した」


「………………」


「ごめん」


「………あ、……いえ」


カァッと顔が熱くなる。


なに、これ。

この、妙にやらかしてしまった感じ。


福元さんが憶えていなかったことにショックを受けたというよりも。

なんていうか。


私のお願いが、とてつもなくくだらないものだったと気づいて。


今さらなんだけど。


………ものすごく、恥ずかしい。


「あの、…もう、忘れてもらって大丈夫です。
むしろ、………忘れてほしいと、」

「はは…っ」

俯いてモゴモゴと話す私の耳に福元さんの乾いた笑いが飛び込んできた。


「……………」


「そっか。だから、ケーキを見て泣いたんだ」


「…………はい」


ケーキを丸ごと差し出されたら、それが「サヨナラ」の合図。


「他に好きな人ができたんだ」

「別れてくれないか?」

そんな言葉を、福元さんの口から聞きたくなかったから。


切り分けたりなんかしないで、丸いケーキにフォークを突き刺して。

黙々とそれを飲み込んでいけば、泣かずに済むと思った。

福元さんに対するいろんな想いを、ケーキと一緒に消化しちゃえばいいと思った。

だけど。


福元さんに対する想いは、私が想像していた以上に大きく膨らんでいて。

想像していた以上に深く広く根を張りめぐらせていた。


ケーキを飲み込む以前に、丸いケーキを見ただけで泣いてしまうほどに。

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