愛かわらずな毎日が。
「あっ、そうだ! おまえさ、」
ズッシリと重たそうなビジネスバッグを持つ手を変えた井沢が、視線を再び私に移した。
「な…、なに?」
見上げた井沢は、つい先ほどまで眠たそうな顔をしていたくせに。
まるでいたずらを思いついた子どものような顔をして言うのだ。
「オトコ、いたんだな」
「……え!?」
ドクンと跳ねた心臓。
うっすらと汗が滲むような、急激な体温の上昇。
待って。
どこからそれを。
私と福元さんが恋人同士であることは、社内では塚田ちゃんと森下、それに佐伯さんしか知らないはず。
あのふたりが誰かに話すことはまずないし、佐伯さんも軽そうにみえて、このことに関しては口は堅い。
だとしたら、誰?
誰が。
「上戸がさ、見たって」
「え……?」
……上戸、くん?
上戸くんて、……営業部の?
見た、って。
「いやぁ、マジで驚いた。上戸にも、『えっ!?マジで?見間違いじゃねぇの?』って。何回も訊いちゃったし」
動揺する私にはお構いなしの井沢。
私に彼氏がいたことが衝撃的だったのだろうか。
それとも。
相手が福元さんだったことが意外だったのだろうか。
どちらにせよ、興奮気味に話す井沢の声のトーンが徐々に高くなっていく。
でも。
「昨日、駅前のカフェで。手なんか握り合っちゃって。見つめ合ってさ、」
ちょっと待って。
「くくくっ。『幸せ?』『うん。幸せ』って。
おまえ、スゲーな。おまえでも言うんだな」
それって。
「ちょっとチャラそうな男だって言ってたけど。なになに?そいつと結婚とかすんの?」