愛かわらずな毎日が。

なにも言わずに階段を駆け下りると、営業部のすぐ下の階にある資料室に駆け込んだ。


「……っ、………グスッ。……ズズッ」

ドアを閉めると同時にその場に崩れ落ちた私の鼻をすする音が、ホコリっぽい部屋に虚しく響く。


目の奥が熱い。

のどがヒリヒリと痛い。


「………ズズッ、………グスッ」


井沢の、あのニヤけた顔。

福元さんの、何を考えてるのかわからないあの表情。


思い出しただけで、寝不足のせいで重たく感じる頭がズキズキと痛んだ。


『へぇ。間宮さん、結婚するの?』


井沢の言葉を信じたわけじゃないでしょう?

そんなのデタラメだって、福元さんが一番わかってるはずじゃない。


だったら、どうして。

どうして。



「ズズズーッ……。はぁぁぁ」

腕時計で時間を確認すると、席を外してから1時間近くが経過していた。


「……ケホッ」


サイアク。

ホコリだらけの部屋で無駄に泣いてしまったせいだ。


「………ゴホッ、………ゴホッ、ゴホッ」


駆け込んだこの部屋は、資料室などという名前はついているけれど、物置と化していて、普段は全くと言っていいほど人の出入りがない場所だった。

いつから壊れているのかわからないけれど、鍵のかからない8畳ほどの狭い部屋には、使わなくなったロッカーや椅子、備品、何が詰め込まれているのかわからないダンボール箱などが保管されている。


「………コホン、……コホッ」


あぁ、いやだ。

ホコリっぽいし、おまけにカビ臭い。


でも、あと10分。


たった10分やそこらで、この泣き腫らした目をどうにかできるとは思えなかったけれど。

今すぐここを出る勇気もないし。

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