愛かわらずな毎日が。
「ケホッ……」
べつに、泣くほどのことでもなかったのに。
そうよ。そうだよ。
なんで泣いてしまったんだろう。
あぁ、いやだ。
自分の恋愛経験の少なさに嫌気がさす。
………って。
違う。
そうじゃない。
恋愛経験云々よりも、私は。
私が気にすべきことは、福元さんと井沢の前で泣いてしまったことではなくて。
もちろん、泣いてしまった理由でもなくて。
というよりも。
それ以前の問題、のような気がする。
「ケホッ……」
やだな。頭が働かない。
とりあえず、戻らなくちゃ。
森下に何を言われるかわからない。
トイレで化粧をなおして。
……あ。
化粧ポーチ、ロッカーに入れっぱなしだ。
化粧をなおしながら考えよう。
森下の怒りを鎮められそうな言い訳を。
それで。
それで、……。
重たく感じる頭でいろいろなことを考えていたら、なんだか息苦しくなってしまった。
たまらず胸元に手をあてて深く息を吸い込む。
すると突然、後ろでドアの開く音が響いた。
「愛……?」
ドアの隙間から滑り込んできた声に心臓がドクンと反応する。
「………ぁ、」
ドアを押さえようと慌てて体の向きを変えたけれど、間に合わなかった。
「ふく、もと……さ、ん」
私を見下ろす福元さんの姿がぼんやりと滲んでいく。
「愛、……」
遠慮がちに足を踏み入れた福元さんは後ろ手でドアを閉めると、床に座り込んだ私と目線を合わせるように膝をついた。
そして。
泣き腫らした目を見られまいと顔を背けた私の体をきつく抱きしめたのだった。