愛かわらずな毎日が。

福元さんの胸にぴったりと頬をつけ、規則正しく響く心音に耳を傾けていると、

「ずっとこうしていたいところだけど。
これから井沢と出掛けなくちゃいけないんだ」

福元さんは私の髪を優しく撫でていた手を止めて言った。


「……そう、なんですね。……あ。私も。
そろそろ戻らないと、森下に怒られる」


残念だけど仕方ない。

のろのろと体を離した私は、福元さんに言いたかったこと、言わなくちゃいけないことを一気に口にした。


「出張、お疲れ様でした。おかえりなさい。
それから……。ごめんなさい、と。
いってらっしゃい」


そしたら、福元さんは。


「ただいま」と、目を細めて笑って。

「ごめん」と、私の頭を撫でて。

そして。

「いってきます」と、優しいキスをくれた。


そんなことをされたら、離れたくなくなるじゃない。


「戻りは、遅くなりそう……ですよね」

福元さんの表情を伺うように顔を上げる。

福元さんは、

「どうだろうね。新規の顧客だから、時間はかかるかもしれないけど」

私の鼻先をちょんちょんと撫でてそう言った。


きっと早く戻れたとしても、出張中に手付かずだった仕事も片付けなくちゃいけないだろうし。

今日は無理かも。


「契約、取れるといいですね」


「んー。まぁ、井沢の頑張り次第だけどね」


「……井沢かぁ」


「ははは。そんな顔するなって」


「だって。この前の契約、危うくダメにするとこだったって聞いたから」


「今回は上手くやるよ、きっと」


「きっと?」


もう少し。

もう少しだけ。


時間稼ぎのために井沢のことを話題に出したりなんかして。

そんな子供じみた真似も、福元さんはお見通しだったりするのだろうか。


ネクタイを直すフリをして福元さんの胸元に触れた。


好き。

大好き。


隠す必要なんてないのに、声に出したら止まらなくなりそうで。


「井沢がやらかしそうになったら、ちゃんとフォローしてくださいね」

そう言って笑ってみせた。

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