愛かわらずな毎日が。
「ほんとに。……もう、大丈夫ですから」
そう声をかけると、玲香さんがゆっくりと顔を上げた。
「………彼から、……どこまで聞いてるか、わからないけど」
騒がしい私の心臓の音とは正反対に、玲香さんの吐き出す空気はゆっくりと響いた。
玲香さんの纏う空気は、やわらか。
そのやわらかな雰囲気は、福元さんの纏う空気とどこか似ていた。
のどの奥がじわりと熱くなる。
負けたとは思いたくない。
思いたくないけど。
玲香さんに勝るものを、私はいくつ持っているのだろう。
そう考えた途端に、消し去ったはずの感情が顔を出した。
「……別れてからは、一度も。ほんとうに、一度も会っていないの」
ほっそりとした指で栗色の髪を耳にかけた玲香さんが眉尻を下げてそう言った。
「……福元さんも、そう言ってました。
そう…、聞いています」
少し低く響いた私の言葉を聞いて、玲香さんはコクリと頷く。
私の中では解決したはずだった。
納得もしたはずなのに。
目の奥で熱くなる醜い感情が、ぽろぽろとこぼれ落ちそうになる。
泣かない。
泣くもんか。
「………あ、あの。………失礼なことだと、わかってはいるんですけど、」
そう言ってグラスに手を伸ばした私。
グラスについた水滴を親指で拭いながら、コクリとのどを鳴らした。
「ひとつだけ。……教えてください」