愛かわらずな毎日が。

「慎重」なのか、「臆病」なのか。

それとも他に、もっとしっくりくるものがあるのかもしれない。

そんなふうに、福元さんを想う気持ちに名前をつけたくなったのは、福元さんが本社に異動してきて一ヶ月が過ぎたある日のこと。

とある光景を目にしてしまった日。


「…………ぇ、」


先月末で退職した柴田部長の備品を引き取りに、空のダンボール箱を抱え、営業部の部屋へと向かう私の目に飛び込んできた。


ぷぅっと頬を膨らませた女性社員と。

そんな彼女を、目を細めて見つめる福元さんの姿。


ドクン、と跳ねた心臓のせいで危うくダンボール箱を落としてしまいそうになった。

息が、止まるかと思った。


………え?

なに……?


驚きのあまり足を止めた私は、そのまま回れ右をして引き返そうかと考えた。

でも。


「何しに行ったんですかっ!?」

空のダンボール箱を抱えた私を見て、キャンキャン吠える森下を納得させられるような、そんないいわけを見つけられる自信がなかった。

何より、ふたりが何を話しているのかが気になった。


営業部の部屋の入口付近に立つふたりの会話は、数メートル離れた私の耳には届かない。


意を決し、ふぅーっと細く長く息を吐き出してから、一歩、また一歩と歩を進めた。


ドクン、ドクン、ドクン


心臓の音に合わせて一歩、また一歩。

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