雪人
「別に言いたくないなら言わなくていいわ。だけどね、……ううん、やっぱり何でもないわ」
男性は宙に向けていた視線をエレミールに移し、複雑そうな表情をする。助けてくれた恩人に対して、あまりにも失礼な行為であるのはわかっているが、ここで自分が彼女に言ってしまえば漏らされるかもしれない。安易に言うのは仲間を危険に晒す。それだけは絶対にしたくない。
男性は頭を左右に振って考えることをやめる。するとその時、ドンっと森の奥、いや、逃げてきたときに通過した場所の辺りから何かが倒れる音が森を反響して聞こえてくる。もしかしたら、あの男性が殺され巨大な赤い狼がこっちに来ているかと思い、男性の顔は青ざめる。
対照的にエレミールは今の音を聞いて、ふふっと笑い声を漏らす。それを見た男性は青ざめた顔で、なぜ自分の仲間が殺されて笑えるのかと思い不思議な表情をする。
「音の正体がもうすぐこっちにくるわ。それよりあなた、顔真っ青よ。大丈夫?」
エレミールに心配そうな表情で聞かれ、シモーズは小さく頷く。
暫らくして、上からカサカサと風もないのに木々の葉っぱが音をたてているのを聞いて、シモーズは怪訝な表情で顔を上げた。すると、黒い影が自分の近くに降りてきている所であった。
そして、黒い影の正体は白銀色の髪をした青年だった。
降りてきた白銀色の髪をした青年はシモーズを一瞥した後振り返り、不機嫌な表情で、クスクスと笑い声を漏らしているエレミールへと歩み寄った。
「エミル、ここへ来る途中にあった泥の地面はお前がしたんだな?」
「そうよ。どうだった?歩きづらかったかしら?」
クスクスと笑い声を漏らしていたエレミールは笑うのを止め、うれしそうな口調でルイに聞く。
「ああ、歩きづらかったな。おかげで一つの場所が拓けた」
ルイは呆れたような表情で、エレミールにわざとらしいため息を吐く。それに反応したエレミールはムッとした表情になるが、すぐに笑顔へと戻る。
二人の会話を聞いていた茶髪の男性シモーズは、話に入りずらい雰囲気に声を掛けるのを戸惑っていた。すぐに、自分に気付いて声を掛けてくれるだろうと思っていたが、二人の会話は止まることがなく、シモーズの存在を忘れ話し込んでいる二人。完全に蚊帳の外にいってしまったシモーズ。