雪人
 精神を落ち着かせ、静かにルイは身体の周りに魔力を体内から放出して纏わせた。青白く銀色の混ざった魔力はゆっくりと密度を増していき、ソクラサの魔力の放出の時とは違うが力強く濃い。
 淀みなく纏っている高密度の魔力が吸い込まれるようにしてルイの両手へと集まり始めた。
 それと同時に、空気が小刻みに震撼した。ピリピリと何かが起こることから恐れおののいたかのように空気が忙しなく告げているようだった。
 風も突然ざわざわとグライドアースから逃げるように引いていく。
 グライドアースを包む異様な空気に家々から何かと思い、人々が外に出ていき、雲一つとない夜空を見上げていった。その異様な空気の発端がルイとソクラサの場所から出ている。
 腰を地面に落としているソクラサが何かしようとしているルイに馬鹿馬鹿しそうに話し掛けた。
「何をいまさらしようとするんだ、俺もお前も直に死ぬ。悪あがきはよ――」
「黙れ」
 ルイの静かだがはっきりとした殺気を帯びた声にソクラサはこの続きを話せなかった。これ以上話せば殺されると思わせる冷酷な声だからだ。ソクラサは口をつぐんでルイが行おうとしている事の成り行きをただ見続けるしかなかった。
 ルイの両手に集積した魔力は一見したところ何の変哲もない普通に蓄めた魔力に見えるだろう、しかしその魔力密度は究極級魔法を凌駕していた。
 それほどの魔力を両手に集めてバスケットボール台の大きさを維持するのは、名のある魔法使いでも不可能だと断言できるほどなのだ。魔力コントロールがなければ魔力は外側へと逃げていき、せっかく多大な魔力を放出していたのに、無駄に消費してしまうことになる。
 巧みな魔力コントロールがあればこそ相応な魔力を扱えるということなのだ。
 両手に集めた二つの魔力を練り混ぜてルイは詠唱する。
「猛猛しい焔は風という名のシリンダーを設け、咆哮を轟かせ仇なす障害を破壊する弾丸となれ、ブラスターガン・フレア」
 キュイインという音を響かせ、風がリボルバー銃を形づくり始めた。外側から内側が丸見えでシリンダー有りの銃に、ユラユラと詠唱通り猛猛しい焔が突き出している円筒に収められている。
 その一部始終を見ていたソクラサが唖然としていた。
「準備完了」
 トリガーに右手の人差し指を掛けて、夜空に銃口を向けたのだった。
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