雪人
 地上から上空千メートルの場所でクーパとシュレリアは滞空していた。
 地上地点と比べると気圧の変化で温度が極端に下がっていた。その所為もありクーパも怒る気力がなくなっている。
 不安定な渦巻いている風の足場を支えに滞空しているクーパが疲れたように溜め息を吐いた。
「どうして俺までここにくる必要があるんだよ」
 殆ど愚痴を零すような独り言だった。
 それを聞いたシュレリアが不思議そうに首を傾けた。わからないのと、目がいっている。
「ルイが連れてけ〜って言ったから連れてきたんだよ〜」
「………」
 理由云々なしかよ、と突っ込みそうなもんだが、クーパはシュレリアの言葉に反応しないで黙っている。
「クーパどうしたの〜?」
 黙っていて反応のないクーパを覗き込むようにしてシュレリアは見た。翼を常にはばたかせシュレリアは滞空している。
「………」
 全く反応しないクーパが気絶したのかと思い、シュレリアは小さな手の平で渾身のビンタをする。 クーパの頬に当たりバチンと小気味よい音が鳴った。
「何しやがんだボケ!」
「あ、動いた〜」
「動くに決まってるだろが! ああめんどくせえ、お前と話すと調子狂うぜ」
 クーパはシュレリアを見やって大袈裟に肩をすくめてみせた。ビンタされた箇所がじんじんと痛みだし、赤くなった頬に手の平の形がくっきり顕になる。
 クーパは赤くなった頬を擦りながら機嫌悪そうにシュレリアを見た。
「じんじんするじゃねえか、おもいっきりビンタするんじゃねえよ。それに……ん? なんだこの感覚?」
 突然、異変を感じたクーパが訝しそうに眉をひそめた。
 その異変は大気が震えているのか、怯えているのか、とにかく振動しているのだ。
 そのことを感じているのはクーパだけではない、シュレリアも感じ取り、上を見上げていた。
「ん〜何か上から来るよ〜」
 なんとも気の抜けた言い方で、シュレリアは夜空を指差している。
 つられてクーパも夜空を見上げた。
「なんだあれ……あの小さな点は?」
 夜空の星たちが瞬く光で僅かに見える黒い点のことをクーパは言っているのだ。
「クーパの契約者さんが唱えた究極級魔法だよ〜」
「あれが究極級魔法……」
 ポカンと口を開いたままクーパは黒い点を見つめた。
 地属性究極級魔法到達まで…… 後、三十秒。
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