雪人
 唖然としていたクーパが気を取り直して慌てて口を開いた。
「シュレリアどうすんだよ!? あとちょっとでここまでくるぞ!」
「そだね〜」
 クーパの切羽詰まった態度とは違い、シュレリアはのほほんと悠長に言ってのけた。隕石が目の前に迫っているのに、焦った表情一つとしないシュレリアはある意味異常だろう。
 隕石到達まであと――
 ――七秒。
「お前の契約者がなんとかするんだろ!?」
「そだよ〜」
 早口でまくしたてて聞いてくるクーパにシュレリアがやはりのんびりした語調で答えた。
 隕石到達まであと――
 ――六秒。
「本当に大丈夫なんだろな!?」 尚も引き下がろうとせずクーパはシュレリアに聞いた。ここまでくれば往生際が悪いといえる。
「クーパは心配性だね〜」
 巨大な隕石が落ちてこようとする目前までシュレリアが笑顔でいられるのは、ルイを信用してるからだった。だから、シュレリアは何一つ心配していないのだろう。そのことをシュレリアの表情から伺えた。
 隕石到達まであと――
 ――五秒。
「………」
 クーパもこれ以上シュレリアに何を言っても無駄だと思い、諦めて黙って隕石を見つめた。
 隕石到達まであと――
 ――四秒。
 絶え間なく落下してくる隕石が大気を揺らす音を響かせ、それは確実にグライドアースに迫っていた。人々は突然巨大な隕石が落下してくることに慌てふためいたり、泣き叫んだり、絶望に駆られ動けないでいたりとパニック状態になっている。
 隕石到達まであと――
 ――三秒。
 クーパは圧倒的存在感のある隕石を眺め冷や汗を背中にかいていた。シュレリアの唱えた魔法三十体の風人形はもはや、ただ押さえ付けられるように隕石と一緒に落下している。
 隕石到達まであと――
 ――二秒。
 クーパは目を瞑り、シュレリアは笑って隕石を眺めた。王都グライドアースを覆う隕石の大きな漆黒の影が射した。滅亡、死、生、絶望、恐怖、様々な感情が王都グライドアースに渦巻いた。
 隕石到達まであと――
 ――一秒
 あと零点何秒か後に押し潰されそうな時、クーパとシュレリアの背中から絶対的な力量体またはエネルギー源を感じた。それは温かくもあり優しくも感じられる炎だった。
 隕石到達まであと――
 ――零点五秒。
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