雪人
 クーパは目と鼻の先に迫る圧倒的な巨大隕石が何故か止まったような錯覚を感じた。いや、止まったというより物凄くゆっくりと動く感じに似ているかもしれない。 永遠の一瞬の中とも呼べる時間の中、唯一動くものがあった。
 それはクーパとシュレリアの背後から凄まじい光を放ちながら高熱球が巨大隕石に近づいていたのだ。あたかも希望の光が絶望の隕石を打ち砕かんとする光景だろう。グライドアース中の人々がその光景に魅入るように固唾をのんで見ていた。
 人々が見ているなか、クーパの横を通り過ぎた高熱球が空気を歪めながら巨大隕石の中心に吸い込まれるようにして音もなくすっと内部に入っていった。巨大隕石の周りにはシュレリアが作り出した風人形が取り囲んでいる。
 落下することを止めた巨大隕石にビキビキと表面に亀裂が走った。それは瞬く間に縦横無尽に走り、中から眩しい光が幾筋も漏れて夜空を照らす。
 あちこちに罅や亀裂の走った巨大隕石が、突然、轟音が鳴り響くの同時に内部から爆発したような衝撃で大同小異無数の隕石の破片となって、夜空に花火が散った時のように散らばった。その影響で突風が吹き荒れ、大気を震わせ周囲に円状に余波が伝う。
 突然の突風にシュレリアは慌てるべくもなく、ルイに頼まれたことをすぐ行動に移した。頼まれたといっても具体的な事を言われたわけではない。そこは契約者と精霊の信頼関係の結びつきの中での意志疎通で、お互いにしてほしいことがわかっているのだ。
「風人形ちゃん達頼むね〜」
 シュレリアの号令で風人形達が飛び散った隕石の破片を受けとめるべく、分裂しながら向かっていった。
 身体をまとわりつく風で突風をなんとか凌いだクーパが疲れた声音でシュレリアに訊ねた。
「下ろしてくれ、疲れた」
「後でね〜。あ、クーパの出番が来たよ〜ほらっ」と言って前方を指差した。クーパはつられて指先の方を見る。
 驚いたことに沢山の風人形が無数の隕石の欠片を持ち上げて滞空していたのだった。それを満足げにシュレリアは見ている。
「クーパあれを粒子状にしてね〜」
「……ああ、わかったぜ」
 クーパは魔力を放射状にして発散させた。クーパの魔力に触れた隕石が次々に粒子状へ変わっていく。
 全てを粒子状に変化させた夜空はキラキラと綺麗に瞬いている。 まるで脅威が去ったことを祝福しているかのように。
< 205 / 216 >

この作品をシェア

pagetop