雪人
「それよりも前にミフレちゃんが先に戦ってたじゃない。地面から隆起させた岩は全部ミフレちゃんの業でしょ」
 エレミールはとにかく自分の所為ではないと、要は言いたいらしい。
 お互いに責任を擦り付け合い、二人の間で言葉が飛びかう。
 そんな二人を見ている三人は呆れ返った。
「もう止めろよ」とルイが口を挟んだ。
「だって!」
 ミフレとエレミールの声が綺麗に重なる。
「いい加減にしろよ、なんのためにここに来たんだ」
「そ、それは……」
 このグライドアースを敵から救うために。
 そのことを思い出したミフレとエレミールはお互いの顔を見て苦笑した。二人は今、責任を逃れることだけを考えていたらしく、本来の目的を忘れていたらしい。
 本来の目的。王都グライドアースを支配している敵を倒すこと。 それが一番重要なことだ。
「そうだね、別にお城がぐちゃぐちゃになっても敵を倒したらそれでいいのよね」
「それもそうだな」
 エレミールとミフレが納得したように頷いた。さっきまで言い合いをしていたけれど、二人はもう笑いあって仲直りしている。
 だが、このことに一人納得できない人物がいた。
 もちろん彼、ベルライズ=トリテラスだ。
「仕方ないとはいえ、これは少しやり過ぎでは?」
 渋い表情でベルライズが二人の女性を見た。
「えーと、あなたは?」
「これは失礼。私はベルライズ=トリテラス。地国に仕える騎士です」
 丁寧な物言いで片手を胸に当てがいベルライズは自らの名を名乗った。
「そう、私はエレミール。ここを無茶苦茶にしたことは謝ります、すみませんでした。それでも――」
 エレミールは言葉を切った。気絶させて寝かせているミューレを一瞥してからベルライズを見る。「私達はこの地国の為に戦いました。このことを考慮して貰えないでしょうか?」
「う、うむ……」
 ベルライズは言葉に詰まりながらも了承の意味を込め頷いた。この地国を裏で支配していた一人を倒してもらっているため、彼は恩義がある人の申し出は断れない性格だった。
「ありがとう」
「いえ、礼を言うならばこちら方です。地国を代表して言わせたもらいます。有り難うございました」
 ベルライズは深々と頭を下げて礼を述べた。その姿は戦ってきた三人にとって何よりもの戦果だった。
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