雪人
「ねぇ、ルイなら無詠唱でもいけるのにどうして詠唱したの?」
「そのことか。その方が無詠唱の時と違い魔力を少し抑えれるんだよ。知らなかったのか?」
ルイはエレミールに顔を向け当たり前の事のように言う。それを聞いたエレミールは驚いた表情で左右に顔をブンブン振る。
呆れたような表情で見るルイは、以外にもエレミールのそんな態度を不覚にも素直に可愛いと思ってしまったのを顔には出さないが胸中では少し驚いていた。ふと、昼間の会話を思い出し、つい本音が漏れて、あれこれ罵倒されたけどエレミールが冗談で言っているのはわかっているので気にしていない。何だかんだいって、以外にも心が傷つきやすいエレミールを知っているので昼間の件もあるし、何より同じ組織の同僚として差し支えがあると嫌なので、一様謝り、慰めるために声を掛ける。
「エレミール、昼間は悪かったよ」
「ほぇ?」
ルイから突然思ってもみない言葉を掛けられ、ブンブン顔を左右に振っていたのを定位置で止めて、くりっとした二重の大きな目をパチクリさせながら素っ頓狂な声を上げる。
「それに、今みたいにしてる表情の方が可愛い。別れた彼氏に見せたら戻ってくるかもしれないぞ」
「ほぇ?………えっ?えぇぇぇーーーー!!」
更に思ってもみない言葉を掛けられ、また目をパチクリさせながら素っ頓狂な声を上げ、混乱している頭をエレミールは必死に落ち着かせようとしている。なんとか落ち着き言われたことを頭の思考回路が徐々に理解していくと同時に、顔が徐々に火照るを感じ、自分の顔が真っ赤に成っていくのに気付く。それよりもルイから信じられないような事を言われたので思わず叫んでしまった。 エレミールの叫び、否、甲高い奇声が酒場全体に響き渡りこだまする。その叫び声を聞いたミリアは急いで奥から出てきて、血相をかいた表情で何事かとマスターに聞いている。苦笑してマスターはミリアに事情を話すと、キッとエレミールを睨み付けて奥へと帰っていった。
ルイはエレミールの甲高い叫びを近くで聞いたため、キーンと耳鳴りがひどく頭を抱える。漸く耳鳴りが引いてきて、煩い叫び声を上げた人物を睨み付けるが、エレミールの真っ赤顔を見て、純情だなと思い睨み付けるのを止めた。