雪人
 エレミールは引っ張られる形でベットのそばまで近づいているのに気付き、まさかと思う。心臓が忙しなくバクバクと動き、全身が鐘のようになった感じがする。思わぬ展開に乙女心に火がつく。
(ああ、私今日でやっと奪われるのね…。どうしよう恥ずかしい!それに朝からなんて想像してなかったわ。でもいいの…願ってもないチャンスだから)

 黙々と妄想を膨らませると、ピタッと立ち止まる振動がルイ越しに伝わる。
 とうとう来たのねと思い、エレミールはルイに体を委ねようとした瞬間割れたガラスのように乙女心は崩れてしまった。

「着替えるから早く出てってくれ」

 愕然とするエレミールを余所に、ルイは部屋から追い出した。
 ポツンと廊下に一人残されたエレミールはふつふつと怒りが込み上げてくるのを感じる。

「私の乙女心を返せええええーーーー!!」

 エレミールの怒りが頂点に達し、宿屋全体に響き渡る叫び声を上げたのだった。
もちろん、後で宿屋の人に怒られたのは言うまでも無いことだが。


 宿屋の食堂で一人拗ねた表情で機嫌の悪いエレミール。その正面には何事もなかったかのように食事をしているルイ。
 食堂はルゲイエが居たということもあり、人が全くといっていいほど居ない。ルイ達二人を含め四人の客しかいないのだ。
 ルイは相変わらず拗ねたままのエレミールに視線を向け、これから任務先に行かなければならないのに拗ねた奴のせいで支障が出ると困ると思いながらパンを噛っている。

(ころころ表情が変わる奴だな。ん〜いっそのことあっちに送り返すか…いや、童顔野郎がまたこっちに送ってくる可能性が高いしな。仕方ない、この手でいくか)

 拗ねた目の前人物のご機嫌をとる方法を思いつき、目を逸らしそっぽを向いてるエレミールに声を掛ける。

「機嫌直せよ、エミル。二ヵ月前に断った買い物、拗ねるの止めてくれたら本部に戻ったら付き合うよ」

「本当に!?嘘じゃないよね!?」

 その言葉に反応し、そっぽを向いていた顔をルイに向け嬉々したように聞く。
 ルイはエレミールのその様子に苦笑しつつも頷き肯定の意志を示す。
 それを見たエレミールは手を握りガッツポーズする。

「わかったらさっさと食べて地国の首都グライドアースに行くからな」

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