【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】







うちにもっと最新の設備と機械があれば
救えたものを……



どれだけ最後まで、
治療をしたいと思う患者さんであっても
小さな医院で出来る治療には限界がある。


だからこそ、
患者さんたちを大きな病院に紹介状を書いて
送り出してきた。


だけど送り出した先の病院の
担当医と上手くコミュニケーションがとれずに
不安な時間を過ごしたという話も聞いた。



うちの病院が、
もっと大きな最新の設備があって病院なら
患者さんを不安にさせずに済んだのかもしれない。











「祐天寺さん、恭真が亡くなった今
 病院存続のための資金繰りと言うことですね」

「西宮寺教授は察しいいですな」




そう言うと、父の夢の計画表を
テーブルの上に、ゆっくりと広げていく祐天寺さん。






その夢を叶えるために
親父と勇生の父親が契約した総合病院建設の書類が
所狭しと並べられた。





さすが、病院建設。
桁が違うよ。





そこには、実施設計概要と記された
分厚い紙の束。


外観パース、内観パース。
建築概要、案内図と配置図。

平面図、立面図、断面図。
全体工程表までがぎっしりと記されていた。




設備まで事細かに記入されたそれを
俺は無心にめくった。





これが……親父の夢の計画?






俺が知らない間に、
親父はそんなこと考えていたのか?




ただただ、親父の夢の中身を
無心に追いかけてめくっていった。








「さて、こっちが
 今の病院の建設状況だ」






そう言って手渡されたファイルには、
工事の記録が事細かに記されていた。





「ここに写真で記録している通り、
 すでに外観は出来ている。

 中の内装も、後僅かで完成するだろう。
 最新の医療器具も、注文通り納品される。

 だがこの莫大な借金を受け継ぐ君に、
 この費用を返済することは可能だろうか?」





告げられた言葉に、
一気に体温が冷却された。





親父の夢には、お金がかかる。


だが総合病院を起業すると言うことは
莫大なお金が動くのも確かで、
親父と勇生の小父さんは、
それぞれが名前を病院の経営者として連ねた。



親父が亡くなった今、
負の遺産であるこの借金も、
俺の身に降りかかる。





だが今の俺には、
こんな返済金、返す当てもない。






親父、どうしたらいんだよ。

親父の願い、
叶えてやりたいが、今の現状
手を出すことすら出来ない。





手を出すことすら出来ないが、
親父の夢を見た今、
俺はこの夢を受け継ぐことこそが
親父への親孝行になるような気もした。






「祐天寺さん、
 今の俺にはまだどうすることも出来ません。

 少し今後のことを考えさせてください。
 身の振り方を考えますから」




絞り出すように告げた俺に、
祐天寺さんは言葉を繋げた。




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