【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「君が私の人形になることを約束するなら、
総合病院に関する一切の業務を任せて貰うことも可能だ。
祐天寺家の財産も担保に入れる形になるから、
祐天寺にとってもリスクは高いが、
多久馬総合病院は、あの地域にとっては将来性が高い。
経営面まで割り込んで、きっちりとすることが出来れば
それまでの間、私が繋ぐことも出来るだろう。
君のお父上、恭真先生にとっても大切な夢だ」
祐天寺久信の人形?
俺が?
いきなりこの人は何を言ってくるんだ。
「恭也君、まぁそんな怖い顔はしないでくれ。
人形と言っても悪いようにはしない。
私には目に入れても痛くない、
可愛い一人娘が居てね。
娘の昭乃が君を好いているようだ。
どうだろうか?
君が昭乃と結婚を決めてくれたら、
私と君とは親子関係。
ならば婿殿の為に、
手助けをするならば、私の身内にも
意義を唱える者はあるまいよ。
多久馬総合病院は、
君にとっても、そこにいる恭真先生のご友人である
西宮寺教授にとっても大切な宝になる。
何よりも救われるのは、
恭真先生が愛した、あの地域の患者さんたちだろう」
次から次へと、
良いことばかりのように告げられ続ける
その言葉が重くのしかかる。
親父の夢を守るために、
俺は神楽さんを捨てて、
この人の言いなりになるのか?
だけど……俺のこの現状を知ったら、
神楽さんは……
多分、あの人は優しすぎて
俺の前から消えてしまう
そんな気がして。
「恭也くん、君の返事に期待しているよ」
祐天寺さんが部屋を出て、
俺は勇生のお父さんと、教授室を後にした。
「恭也くん、
私は今朝、退官を決めて来たよ。
総合病院じゃなくてもいい。
確かに恭真と私の夢だが、
息子に負担をかけてまで叶えるのは
アイツも望んでいないはずだ。
多久馬医院も、ゆくゆくは君が継げばいい。
だがその日まで、
恭真を救えなかった私に、
アイツの大切な場所を預からせてはくれないだろうか?」
勇生の親父さんは、
そう言って俺に問いかけた。
「祐天寺のこととか、病院の事は考えさせてください。
だけど多久馬医院のことは、
小父さんがしてくれるなら、親父も喜ぶと思います。
地域住民の為にも、
どうぞ宜しくお願いします」
そう言って
俺は頭を下げた。
その夜、帰宅途中に
見慣れない番号から電話がかかる。
「恭也くん、祐天寺だが……。
今日は突然すまなかった。
聡明な君のことだ、恭真先生の夢と
病院を守るために君がとるべき道は
わかっているね。
君はもう、逃げられない。
私たちの援助を拒めば、
君の未来は絶望的だ。
私には君をあの場所から消すことさえ、
いとも簡単なんだよ。
全ての資産を差し押さえて、
体の不自由なお母様を抱えて路頭に迷いたくはないだろう」
柔らかな口調でありながら、
その中身は容赦ない言葉。
「脅されるおつもりですか?」
何とか告げた言葉に、
祐天寺さんは、言葉を続ける。