【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】





「おばさま。
 私は離れませんよ。

 おばさまの事も、恭也の事も
 ちゃんと守りたいと思ってます。

 だから何時でも、
 出掛けたい時は言ってくださいね。

 時間があえば一緒に出掛けましょう。

 女同士、二人でこうやって」



そう言いながら
車を多久馬の自宅へと走らせた。



おばさまにとっての久しぶりの外出は
約4時間。


その4時間を楽しんで、
おばさんはまた、
何時もの自分の生活テリトリーへと
戻っていった。


おばさんを送り届けた後も、
恭也が帰って来た形跡は何処にもなかった。


そのままキッチンを借りて
今日の晩御飯の支度を全て整えて
私は多久馬家を後にした。


文香に車を返して、
電車で自宅に帰った私。




その玄関前で見つけた……
逢いたかったその人は、
私の自宅の玄関前で
ゆっくりと笑いかけながら、
両手を広げた。




「おかえり、神楽」

「ただいま……恭也」



彼の胸に顔を埋めるように抱き付いた私の背中に
恭也は手をまわして、
抱き込むように強く抱きしめる。



「今日は有難う。
 母さん、喜んでた」

「ううん。
 私も楽しかったから……。

 ご飯は?」

「まだ食べてない。

 最近、仕事でずっと会えなかったから
 今日は真っ直ぐに此処に来たんだ。

 逢えるかも知れないって思えたから」


そう言って話しかける恭也の顔は
酷く疲れているように見えた。






おじさまの夢を背負うって言う
プレッシャーで、
恭也が疲れ果ててる。


そんな風に感じた。




私に出来る事は、
そんな恭也が少しでも休んで
もう一度歩き出せるように
この愛しい人を抱きしめること。




家の中に招き入れて、
玄関で求め合うように、
唇を何度も何度も重ねた。




家の中に響く、
艶やかな声。




だけどそれは……
私たち二人にとっての
かけがえのない時間。






そのまま晩御飯の支度を終わらせて、
食事をすると……
食休みの時間。


恭也は何時ものように、
私にあの曲を奏でて欲しいと求める。



リクエストに答えるように、
スタインウェイに向かって奏でる
愛の夢の音色。



キラキラと輝くような音色に慌せて
もう一度、後ろから抱きしめて
耳たぶを甘噛みする恭也。


恭也の息が耳の中をくすぐるたびに
それだけで体が過敏に反応してしまう。


彼が欲しいと……
望んでしまう。




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