【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



そんな風にすら
考えてしまう時間。




唯一の私を支えていた、
おばさまとも、
連絡が取れなくなってしまった。




だからって……この状態で、
多久馬医院を訪ねることも
臆病な私には出来なかった。



返信葉書を見つめながら、
出席と欠席を交互に見つめた時間は、
祐天寺さんが職場に押しかけて来たことによって
ピリオド。


手渡された、結婚式出席の返信葉書。



その葉書を見て、
恭也はどう思っだろう。



ただでさえ苦しい立場の恭也を
今以上に、私が追い詰めていく
そんな気がした。




「神楽、明日でしょ?
 二人の結婚式。

 行きたくなかったら、
 行かなくてもいいんじゃない?」



返信葉書を出したあの日から、
毎日、その日が来ないことを望み続けた。


時間よ止まって欲しいと願い続けた。


だけど時の神様は
時間を止めることはしてくれない。



二人の結婚式を明日に控えた
その日、溜息を何度も吐き出す私の肩に手を添えて
文香が呟いた。



「行かないって言う選択が出来たら、
 幸せだね。

 でも私……その選択をする勇気もないの。

 明日、二人の結婚式を見て
 私の心がどうなるのかなんて私もわかんない。

 もう今は自分で自分がわからないの。

 それでもね、たった一つだけ……
 恭也の為に、愛してる人の為に出来る事があるの。

 私が参加したら、恭也君のお父さんの夢は手に入るの。
 多久馬医院を慕ってくれる、沢山の人は笑顔になれるの。

 だったら……、私がそんな沢山の人の笑顔を
 奪っていいはずないって……そう思うから」



泣きたくないのに……
絞り出すように吐き出すたびに、
頬を伝い落ちる暖かい雫。


その雫を必死に手の甲で拭って、
わざと笑顔を作る。


これ以上、
自分が惨めにならないように。

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