【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




「バカね……。
 ホント、バカだよ。
 今日、家においでよ。
 今日の神楽は危なっかしくて
 見てらんないから」



文香はそう言って私に告げる。




危なっかしい……。



そうなんだ……。


文香の言葉をそのまま、
受け止めてしまうのは
多分、自分で客観的に見つめることが出来ないから。


誰かの感想でしか、
私を知る術がなくなってる。


そんな自分が、
一気に恭也と出逢う前の私を思い出させて
急速に失われていく
その温もりの恐怖が、
私をゆっくりと締め付けていくようだった。




結婚式当日。



重怠い体を強引に起こして、
アシンメトリーの
ライラックカラーのドレスに身を包む。


心とは裏腹に、
ドレスだけでも鮮やかに……。



「用意できた?」



そうやって私が借りていた部屋に姿を見せた
文香は、黒をベースにコーディネイト。



「文香……」

「ホントはね、
 全身真っ黒で参加してやりたいわよ。
 
 でもそれは流石にマナー違反だからね」



そう言って私に話しかけた。



「ホントにいいの?」


再度、文香はゆっくりと問う。

その問いに黙って頷いた。



「旦那がホテルまで送ってくれるから。
 出掛けよう。

 ちゃんと祐天寺が何してきても対応出来るように
 向こうでは、勇生君が力貸してくれるから。

 倒れそうになったり、もうダメだって思ったら
 ちゃんと言うんだよ」



そう言って、文香は私を旦那さんが
運転する車へと誘導した。

< 145 / 317 >

この作品をシェア

pagetop