【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「なんだよ、
 まだ帰ってなかったのか?」

「帰れるわけないだろう」




雄矢は黙って、
そう切り返した。




「ハネムーンは?
 もう、行くのか?」

「いやっ。

 今日の祐天寺は
 この後も祭りだよ」

「お前は?」

「新郎がサボるわけには行かないだろ。
 着替えていくよ」




そう答えながらも、
無意識に、
痛む胃へと伸ばされていく手。



「少しくらい待たせておけ。

 あのご令嬢だったら、
 一人で場をやり過ごすくらいなんでもないだろう。

 何時から続いてる?」



鞄から再び、薬を取り出して
流し込もうとする俺に
雄矢が更に問い詰めるように続ける。


手にした薬を確認して、
「やっぱりな」っと続けた。




「治療は?」

「投薬だけな。

 薬だけは、勇生の親父さんに連絡して
 処方してもらってる」

「無理しやがって」

「なぁ、雄矢。
 神楽さん、一階で倒れただろう。

 どうなったかわかるか?」






ただ……
彼女の事が知りたかった。


どれだけ酷いことをしたのかが
わかっていても……。





「彼女は大丈夫だよ。

 神前もお前んとこの教授が祐天寺と繋がってる。
 安心して休めないだろうからな、
 俺んとこに運ばせた。

 薬入れて、ゆっくり寝かせる。

 それで落ち着いたら、
 神楽さんに決めさせるさ」




その後は、雄矢と別れて
再び、一族の前で偽りの仮面を被る。
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