【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

17.居場所 -恭也-



神楽さんの居場所がわからない。

それは、
祐天寺と結婚した今も
不安以外のなにものでもない。


俺自身の心に
素直になることが出来るなら
今も神楽さんが居続けることを
自分が一番知っているから。


だけど……
俺が堂々と動くことは出来なかった。


俺がなりふり構わずに動くと、
神楽さんを今以上に
傷つけてしまうことに気がついたから。




結婚した後は、
俺の生活は一気に忙しくなった。



祐天寺の義父と一緒に
付き合いに奔走する時間。


その付き合いが、
未来の俺自身を居場所を確立するための
大切な行事なのだと
俺自身に言い聞かせて、
寝る間も惜しんで時間を作った。


大学病院の方でも、
義父と懇意にしている教授の力もあって
多久馬総合病院で新しく働いてくれる
腕のいい医者探しも同時に始める。


そんな俺が
勇生と話せる時間は
勤務中の職場でしかなかった。


だけどあの結婚式のあの一件以来、
勇生の態度は、
俺を軽蔑しているようにも感じる。




神楽さんの居場所を探して欲しいと
電話したあの日も、
勇生には上手く交わされてしまった。


だけど……何とか話し合って、
勇生を味方としてつけておきたかった。


敵ばかりの……
心を許すことが出来ないこの場所で
俺を理解してくれる、
そんな存在で居て欲しくて。



昼休み、一人でカフェテラスに向かう
勇生を追いかけて、俺も一緒に肩を並べた。




「恭也……。

 今日は、
 教授の機嫌取りはいいの?」



不機嫌そうにそう言った勇生の腕を掴み取って、
人気の少ないところに連れて行く。



「恭也、何のつもりだよ」


アイツは静かに怒りを表す。

いつも笑ってムードメーカ的なアイツが
今は笑顔を浮かべようともしない。

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