【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「悪い。
 勇生にしか聞けないんだ。

 あの日……神楽さん何があった?
 雄矢んとこに運ばれたって聞いた」


「神楽ちゃんを犠牲にして、
 祐天寺昭乃を選んだお前が
 なんで今更聞く?

 あの日、神楽ちゃんがどんな思いで
 過ごしていたか、わかるか?

 あの場所に居なければ……
 あの子は……」


勇生はそこまで言って、
しまったとばかりに表情を曇らせて
口を閉ざした。





今……あの子はって言った……。



あの子。



そう紡いだ勇生の言葉から連想するのは、
二人の愛の結晶。



「勇生、もしかして……赤ちゃん?
 神楽さんのお腹に、
 俺と神楽さんの赤ちゃんがいるのか?」
 

問い詰めるように、
勇生の体に力を込める。


勇生はそんな俺にされるがまま、
揺らされて、小さく溜息を吐き出した。



「居たんだよ。
 もう過去形だ。

 その意味がお前にはわかるだろう」



そう告げられた勇生の言葉に
俺は後ろの壁に持たれながら
ズルズルと床へと崩れ落ちる。

それと同時に、
ストレスから胃の痛みが激しくなる。


せりあがってくるものに
必死にたえながら、
俺は必死に体を起こして
トイレへと駆け込む。




神楽さんが流産した……。





宿っていた、
俺の赤ちゃんが居なくなった。


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