【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




胃液を便器に吐き出して、
トイレの中の壁を握り拳で
ガンっと叩いて、そのまま崩れ落ちた。




もう取り戻すことが
出来ない命の重さ。



その存在すら、気が付くことが出来ずに
旅立った我が子。




「おいっ、恭也。

 大丈夫か」




心配して駆けつけて来たらしい勇生が
トイレのドアを叩きながら、
声をかける。


何度もトイレの水を流しながら
静かに涙を流す俺の傍ら、
アイツの気配だけを感じていた。



暫くして、
トイレのドアの鍵を開ける。


開けた途端に、
心配そうな勇生が俺を覗きこんだ。



「恭也?
 顔色……」

「これくらい大丈夫だよ。
 胃液、吐いてきただけだ。

 お前の親父さんが
 処方した薬があるから。

 それより勇生、力を貸してほしい。

 あの日頼んだ通り、
 神楽さんがあの教室から異動になった。
 居場所を知りたい。

 俺は思うように動けないから」



そう言って、
勇生の肩を掴む指先に力を込めた。


そう言って、
勇生の肩を掴む指先に力を込めた。



「お前……」

「諦めてねぇよ。

 俺が今も愛してるのは、 
 神楽さんだけだよ。

 けど親父の夢も叶えてやりたいんだ。
 息子として。

 だから俺は祐天寺を利用してやるんだ。
 
 祐天寺を利用して、
 俺は力をつける。

 力をつけて、神楽さんを堂々と
 迎えに行く。

 そう決めてる。

 だから……頼む。
 神楽さんの居場所を探し出してくれ」


神楽さんのことを勇生に託して、
俺はもっと上にのぼりつめる。
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