【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
強くならないと大切な存在は
守れないと知ったから。
経済力が伴わなければ、
地位が伴わなければせ
どうにも守れない
そんなものもあると知ったから。
トイレで勇生と別れた後も、
俺の毎日の行動は変わらなかった。
全ては夢の為。
そして忙しく駆けずりまわっている時間は、
祐天寺昭乃の干渉から、
俺自身を救い出してくれる。
少しずつお腹がせり出して
身重になって行く祐天寺昭乃。
そんな彼女を、心配する旦那を演じながら
俺は少しずつ、祐天寺のテリトリーへと
自分を埋め込んでいった。
勇生から再び、
俺の携帯に連絡が入ったのは、
神楽さんが俺の前から姿を消して
一ヶ月が
過ぎようとしていた頃だった。
三人で外出中に鳴り響いた
その電話。
「恭也、見つかったぞ」
勇生の声に対して、
俺は、
まともな返事が返せるわけはない。
「それで?」
そう返した声に、
勇生が小さく告げた。
「もしかして一緒にいるのか?」
「あぁ」
「わかった。
なら用件だけ伝える。
神楽ちゃん今、俺のマンションに居る。
ウチの奥さんが相手してる。
後……俺の息子がさ。
後でいい。
時間が出来たら顔を出せ」
「わかった。
今から向かう」
そう続けた勇生の声に、
緊張感を持って返した。