【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】





「学校の帰り道に見つけたから。

 友達とお茶して帰ってる時に
 聞こえたんだ。

 サロンコンサート。

 痛くて、演奏するのも厳しいと思うのに
 結城さん、普通に演奏しててさ。

 それで……、
 俺も少し触ってみようかなって」
 




当たり障りのない理由を
サラサラと紡ぎあげる。



まぁ、言ったことも事実だ。
嘘にはならないはずだから。





「はいっ。

 じゃあ、今から30分の体験レッスンを始めます。

 体験レッスンは、
 音楽の楽しみを知って貰いたいだけなので
 身近な音楽。

 きらきらぼしを使って、
 遊んでみたいと思います。
 
 恭也君に演奏して貰うのは、
 有名なこのフレーズ。

 ドドソソララソって続くね。
 今日は指使いとか、
 無視して一本指でも構いません」










そういうと、彼女の指先が
俺の右手に触れて、

良く知った
『きらきらぼし』のフレーズが
奏でられるように、
鍵盤の上を誘導していく。







掌から伝わる、
彼女の温もり。






それだけで……
おかしくなりそうなほど、
ドキドキしてた。




「恭也くん?

 大丈夫?難しかった?」




彼女の少し気遣うような声に
現実へと引き戻される。



「あっ、大丈夫です。

 続けてください。

 指一本でいいなら、
 鍵盤の場所は覚えました」





これ以上、彼女の手が俺に触れ続けたら
俺の理性がどうにかなりそうで……
少しでも早く、沈めたかった。




彼女は、隣にもう一つピアノの椅子を並べて
隣に腰掛ける。




彼女の合図で、
俺が指一本で演奏するのは、
『きらきらぼし』のメインテーマ。






そして俺の拙い演奏を追うように
彼女の壮大な「きらきらぼし」の伴奏が
押し寄せてくる。






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