【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



沈黙が……怖い……。



今更、なんで頼るんだよ。

都合が良すぎるだろうって……
そんな言葉を言わない人だって思いながらも、
拒絶の言葉が出てくるのに恐怖を感じてる
弱くなった私。


どんなに強さを装って見せても、
貴方の前では、そんな仮面は全て
消えてしまうから。



「もう心配しなくていいよ。

 明日も俺は動けないけど、
 そっちに勇生を迎えに行かせる。

 今日中に手配しておくから、
 明日には転院出来るように
 神楽さんもしておいて」





待ち続けた沈黙の後、
綴られた言葉は、
望み通りのとても暖かい言葉だった。






電話が切れた後も、
私は携帯電話を握りしめたまま
その場所から動けないでいた。




「結城さん」



立ち尽くしてる私に
背後から声がかかって振り返ると
そこには真人の主治医の先生。



「先生……」

「少しいいかな?」


そう言うと先生は、私を誘導するように
真人が眠る病室の方に歩いて行く。



「転院の事だけど……」


そう言って切り出した先生の言葉に、
私は先ほど
恭也君と話したことを伝えた。



「そう。
 結城さんも多久馬先生と話したんだね。
 
 直接関係があるなんて、
 びっくりした。

 今、正式に向こうの病院から転院の受け入れ承諾を貰ったから
 お母さんに少しでも早く伝えようと思って」


そう言って、
真人の主治医の先生は微笑んだ。 



「有難うございます。

 真人が助かる道が少しでも切り開かれて
 本当に嬉しいです」

「多久馬が期待に応えてくれるでしょう。
 僕も出来るとは思うんです。

 ただ……確実性を行くなら、
 彼の方が適任だと感じたから。

 明日、彼の病院から迎えが来ることになります。
 びっくりしないでくださいよ。

 ヘリが来ます。
 道中も向こうの先生が一人、付き添ってくれます」

「はいっ。
 有難うございます」


「今日は真人君の事は、僕たちが責任もって見てますから
 お母さんもゆっくりと休んでください。

 明日は移動ですし、ほら真人君の入院期間、家を空けることになるなら
 いろいろと準備も必要でしょうから」



そう言ってやるべき出来事を諭してくれた先生にお礼を告げて、
私は久しぶりに、自分の家へと戻った。



真人の声が聞こえない寂しい家を
感じるのが嫌で、殆どを病院で過ごしてた……。





部屋に入ってスーツケースに荷造りをして
ガスの元栓や、電気のブレーカーを落とす。



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