【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】





大好きなのに……
もう弾きたくないと思った……
そんな曲なのに。






彼にリクエストされてから、
悩む間もなく、
覚悟を決めて演奏した。





それ以来……
彼との時間を振り返るように
一人の時は、こっそりと演奏する。










気持ちよく演奏して居た時に、
ピアノの譜面台に置いていた携帯が
点滅して着信を告げる。





鍵盤を走らせる指をとめて、
携帯に出る。




「もしもし、神楽。
 暇してる?」





電話の向こう、
音楽教室でインストラクターを共にする
親友の文香の声が聞こえる。



「暇って言うか、
 ピアノ弾いてた」

「ったく、神楽暗いよ。
 たまには、ピアノ忘れて
パーっと賑やかに過ごそうよ」



そうやって誘う、文香の勢いに……
流されるように頷いた。



「決まりっ。

 今から『谷が丘のチェリー』まで来てね。
 私も友達がさ、合コンのメンバー集めてんの。

 後二人欲しいんだってさ。
 だから、私と神樂でちょうどいいでしょ。

 じゃ、『チェリー』に18時だからね」



一方的に告げられた電話は、
すでに切れて……虚しい音だけが耳に残る。




ったく、何で今日かな?




今日は私、バイトもないし
久し振りにゆっくりと過ごせると思ってたのに。



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