【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




俺は彼女に何時も振り回されてる。



それは何も変わらない。


あの頃と違うのは、
今の俺には、言い方は悪いけど
財政力がある。


そしてそれぞれの分野に
力強く根付いたパイプ、権力。



だからこそ、
もう怯えつづける必要はない。




俺が今、一番怯え続けるのは
真人君に拒絶されることと、
神楽さんがもう一度、
俺の目の前から消えてしまうこと。



そうさせないためなら、
どんなことでも、
なりふり構わずしてしまいたかった。



どれだけ俺にとって、
彼女が必要なのか
離れている時間が教えてくれたから。








俺と母さんの目の前で
美しいピアノを奏で続ける神楽さんは
あの頃と何も変わってなかった。




「さぁ、いいもの聴かせて貰ったわ。
 本当に神楽ちゃんは、ピアノ上手いのね。
 また聴かせてちょうだいね。

 恭也、ちゃんと話し合いなさいよ」



そう言うと、
母さんは俺たちを二人だけ残して 
部屋を出て行った。


同じ階の隣に、
母さんの部屋がある。




一時は怒って勝手に家を飛び出して
自分で施設に
引きこもってしまった母さん。


何度逢いに行っても、
あって貰えないまま時間だけが過ぎた。


母も不在の多久馬医院が
老朽してきて、建て替えを決めた時
その周辺の土地を買い取って
賃貸マンションとして貸し出す予定だった。


だけど今、そのマンションの仕様は
大きく変化を遂げている。




神楽さんが真人君を連れて来ると知った時、
初めて、気が付かれた
遠方から俺たちを頼って、すがる気持ちで来る
家族たちの立場。

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