【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

10.溺れそうな心 -神楽-




この場所へきて
あっと言う間に1週間が過ぎようとしていた。


恭也君は毎日仕事で忙しいのか、
ずっと姿を見せることはなかったけど、
それでも1日に何度か、
時間を作って私たちの前に顔を出してくれた。



言葉ではキツイ言い方をしても、
恭也君が私が嫌がることをしないのは知ってる。


24時間体制で完全看護だから
毎晩、真人と離れて過ごしてるけど
それでも私が病院に姿を見せると
恭也君が面会出来るように手続きをしてくれる。



忙しい仕事の合間に、
私の人間ドッグまで手続きを取られた私は
やっぱり彼に指示されるままに
初めての経験をすることになる。



検査結果を見ながら
恭也君も勇生君も、
途端に口調がきつくなって渋い顔をしてるけど
それでも二人の優しさが伝わってくる。


真人もまた、短時間のうちに
恭也君と勇生君の事がお気に入りになってた。




だけど約束通り、
恭也君は、
真人に自分が父親だとは名乗ってる気配はない。



だけど私が真人の前で
恭也君の名前で呼んでも誤魔化せるように
勇生君には、仕組まれていたみたいで
ある日、真人から恭也君の名前を聞いた時はドキっとした。



『ママ、きょうや先生好き?』



純粋な何気ない一言はキツイよ。


そんな質問に答えられない私を見ながら、
勇生君は真人と一緒に笑ってる。



「ほらなっ、真人。
 ママ、顔真っ赤にしてるな」

「うん。
 ママ、おねつ?」


心配するように覗きこむ
真人に勇生君は、また余計な事を吹き込む。




「ママ、お熱かも知れないなー。
 真人は先生がいるから、大丈夫だよな。
 ゲームの続きするぞ」

「うん」



勇生君にべったり懐いてしまった真人。


ふいに扉が開いて、

「父さんいるの?」って男の子の声が聞こえた。


病室に姿を見せたのは、
背の高い男の子。


父さん?


確かにそう言った……
だったらこの子は?



「冬君?」

「そうだけど?」



そう言いながら、
冬君は首をかしげる。



「冬生、神楽ちゃんだよ。
 久し振りだろ。

 んで、ほらこっち来いよ。
 真人君」



勇生君がそう言うと、
冬君はもう一度私の方を見て呟いた。


「神楽姉さん。
 嘘、信じられない。

 アルバムの写真しか残ってなかったから
 もう会えないと思ってた」


そう言うと冬君は、
そのまま奥の部屋へと向かう。


「真人君、僕、勇生先生の子供。
 
 後は、真人君のママに
 小さい時によく遊んで貰ってた。

 病院退屈だと思うけど、
 時間見つけて顔出すから、
 一緒に遊ぼうね」

そう言うと真人はすぐに、
冬君にも懐いてしまった。



「んじゃ、冬生。
 真人君、暫く頼むぞ。

 真人君、
 ママの事先生が借りてくからな」


勇生君はそう言って
私を病室から連れ出す。



真人が生活する病室は、
連日、それぞれが手渡す
玩具であっと言う間に
いっぱいになった。
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