【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



目覚ましと共に体を起こして
着替えて階下へと
出勤準備をして向かう。




「貴方、昨日も遅かったのね。
 帰ってらっしゃらないのかと思ってたわ」

「仕事が立て込んでる。
 俺に構わず先に眠ってくれて構わない」

「えぇ。
 そう明日、祐天寺の親族会議があるの」

「俺は仕事が立て込んでるよ。
 君が代わりに出席してくれ。
 勝矢も連れて」

「えぇ。
 そうね……勝矢さんは、祐天寺と多久馬を支える
 架け橋ですものね。
 
 それより、昨日……病院に顔を出した時に
 気になる名前を聞きましたの。

 結城神楽。
 あの人、まだ生きてたのね。

 幸せな結婚生活をしているはずの人が、
 どうしてまた私の前に姿を見せるのかしら?」





昭乃はそう言って
朝から、彼女のことを貶めていく。





「昭乃、正直に話す。

 今の祐天寺に、あの頃のような価値はない。
 義父さんがなくって、負債を抱えた祐天寺。

 君が知らないだけで、暴力団との接点があったとか
 世間ではいろいろと言われている。

 今では祐天寺の傘下として、
 多久馬総合病院があるわけじゃないんだ。

 俺のグループが、祐天寺をかろうじて支えてる。
 君の力は、もう何の意味もなさないんだよ。

 今、多久馬では彼女の子供が入院してる。
 俺と血の繋がった本当の子供だよ。

 俺は今は全力で二人を支える。

 君によって断たれてしまった時間を
 取り戻すために。

 君と勝矢の生活費の面倒も見る。 
 それが、義父さんへの恩返しだ。

 だが俺の心まで、
 束縛できるとは思わないでくれ」





吐き出すように言い切ると、
彼女に背中を向けて
迎えに来た車へと乗り込む。





今は失われた時間を
精一杯、取り戻したいだけなんだ。





俺がずっと愛し続ける
その宝物を……。





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