【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


勇生はそう言うと電話を切る。



神楽さんと再会した時から、
ずっと心に秘めていた想い。


その計画を成功させることが出来たら、
俺の時間も動き出すのだろうか。



腕時計にチラリと目をやって
エレベーターを見つめると、
一階から順番に移動してくるのが確認できた。


ゆっくりと止まったライトは、
今、俺が居る階の数字を照らし出す。


開く扉。


「恭也君……」


俺の姿を捉えた彼女は、
小さく名前を呟いて
そのまま力なく崩れ落ちる。


「神楽さん」


反射的に彼女を支えるように
抱きとめる。


震える彼女の体。
涙を零す瞳。


その様子から彼女が
今も恐怖と必死に向き合っているのが
感じ取れた。


そう昔から彼女はそう。


全てを一人で抱え込んで
やり過ごそうとする。



「ごめん……。
 神楽さん、怖かったよね。

 アイツには、病院の出入りを禁じたから
 もう立ち入ることはないと思う。

 神楽さんにも真人君にも、
 危害はもう加えさせないから。

 真人君の病室も、
 アイツが知らない場所へと変更した。 

 病室に近づけるスタッフも、
 信頼できる存在だけにしたから」


そう言いながら抱き寄せる。


まだ震え続ける彼女を
支えるように、
部屋の鍵をあけて入っていく。


「恭也、神楽ちゃん……」


騒ぎを感じたのか、
隣の部屋から母が姿を見せる。
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