【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


「母さん。
 悪い、騒がせて。

 病院で、昭乃が一騒動起こして
 神楽さんを傷つけたんだ」


昭乃の名前を出した途端に、
昭乃嫌いの母は、
それ見たことかと、
蔑むような視線を向ける。


「今のアンタに
 神楽ちゃんの傍にいる資格はないよ。

 私はね、お父さんの夢を叶えようとした
 恭也の心は嬉しかったよ。

 だけど最愛の人を苦しめて、
 私の大切な友達を苦しめて
 自分の心も殺して。

 そうやって必死に夢を叶えようとする
 お前の生き方が気に入らなかった。

 今回の一件も、
 お前の選んだ過ち故のことだろう?

 本当にお前はバカ息子だよ。

 後の事は母さんがやっておくから、
 お前は自分がやるべきことをしておいで」


神楽さんに安定剤を飲ませて
睡眠導入に導く。

眠りに落ちた彼女を母に預けて、
俺はマンションを後にした



そのまま向かうのは祐天寺の屋敷。


自分が衝動的に行なおうとしていた
出来事に、今更言葉を失う昭乃。


言葉をかけようと意識すると、
昭乃を責めるだけになってしまいそうで、
ただ何も告げずに同じ部屋の中で過ごし続ける。

長い沈黙。

昭乃にも同じように、薬を飲ませて
休ませると、明け方に病院へと戻った。

ざわつく心を落ち着かせることが出来るのは、
天使の笑顔をくれる真人君の傍。


疲れた体と心に元気を注入するように
移動した限られたものしか立ち入ることが出来ない
新しい病室へと向かう。


そのまま真人の手を握りしめて、
ベッドサイドの椅子に座ったまま
軽く眠りの中に誘われていく。

朝陽が昇る、僅かな時間が
今の俺にとって、
心が休息できる、そんな時間になってた。


疲れていても子供の笑顔で
また頑張ることが出来る。

それが……こう言うことなのかも知れないと
一つ知らないことを気付かされた。


真人が俺を父親に育ててくれるんだな。
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