【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


「おっ、調子いいな」

「うん。

 勇生先生にも
 バッチリっていってもらったよ」

「そうか。
 んじゃ、動物園から遊園地だ」

「やったぁー。
 ママ」


真人君の無邪気な表情は
コロコロと変わっていく。


「じゃ、行きましょうか」


そう言うと、神楽さんの傍にあった
大きな手荷物を持ち上げて、
真人君の手を掴む。


小さく差し出された可愛い手を
拒むなんて出来ない。


真人君、俺が君の本当に
お父さんなんだよ。

この温もりを忘れないで。


何度も何度も、
心の中で念じながら。


「あっ……あの……。
 清算は?」


神楽さんが、
そんな俺にそう言いいながら
鞄の中に忍ばせているであろう
お金の入った
封筒に手を伸ばしているみたいだった。


「清算は終わった」


それだけ告げると、
何も言わずに彼女に顔を横に振る。


俺に出来る事は、
治療費を助けることくらいだよ。


君は今までもこれからも、
この子を必死に育ててくれるんだろう。

俺が養育費を出したいと言っても、
君は受け取ってはくれないと思うから
だからこそ……今回だけは、
譲ることなんて出来ない。

今の俺が、
精一杯、我が子に出来る事なんだ。




歩いていた真人君の足がピタリと止まる。

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