【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


「ママ」と
彼女を呼びなが後ろを向いて
手を伸ばす真人君。



真人君の声に、
神楽さんも慌てて息子の手を掴み取る。


気が付いたら、
真人君を通して、家族三人が
一つに繋がった瞬間。



「車、駐車場にあるから」



そう言って勇生の
愛車へと誘導していく。



「勇生に借りて来たんだ。
 アイツの愛車」


そう言うとトランクに荷物を詰め込んで、
後部座席と、助手席のドアを開ける。



「真人君、
 お母さん助手席に借りてもいいか?」

「うん。
 ぼく、後ろにいくよ」


そう言って真人君は
後部座席に先に乗り込んでしまう。


「さっ、神楽さんも」

そう言って促すと、
彼女もまた助手席に乗り込んで
シートベルトを締める。

俺は助手席のドアを閉めて、
運転席へと回り込むと
ゆっくりと車を走らせた。


時折、助手席からの
彼女の視線を感じながら。


「ねぇ、ママ。
 
 今日だけ、
 先生のことパパってよんでいい?」 


後部座席から体を乗り出すように
前に顔を突き出して無邪気に笑う真人君。


「真人君、あぁいいよ。

 先生もこの旅行の時だけは、
 真人君のお父さんだ。

 勿論、お母さんが許してくれたらだけどな」


真人君の申し出は俺にとっては
願ったり、叶ったり。

後は、助手席の彼女が
拒む前に先手をスマートに打たないと。

じーっと覗きこむ真人君。


「あんまり我儘言い過ぎないのよ」

「やったー。
 今日は、ぼくにパパが出来たんだ」


そうやって喜ぶ真人君と同じように
俺の中でも、暖かさが
湧き上がっていく。



「よし、ママの許可も出たからね。
 今日は、真人君のパパになれるぞ」

「へへっ。
 だったらパパ、君はいらないよ。
 ママは、ぼくのこと真人ってよぶもん」

「そうかっ……。
 なら、先生も真人って呼んでいいのか?」

「うん。
 
 いいよっ、
 それに先生じゃなくて今日はパパなんだよ」


後部座席から
嬉しそうに声を出す真人君。



一日だけの親父を許された俺。

親父ってどうするんだ?
親父はどうしてた?


必死に考えて俺が言えたことは
ちゃんと今の真人君を見て
叱ることだった。

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