【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「なら真人……。

 あんまり前に体を乗り出すと危ないから、
 ちゃんと後ろで座らないとな。

 動物園と遊園地だろ」


俺が叱ると
真人は口を尖らせながら
大人しく後部座席へと体を預ける。

だけど聞き分けはとてもいい。

車を走らせ続けて、
最寄りのインターへと高速を降りる。


「真人、もう少しで到着するよ」

「ママ、動物園って書いてるよ。
 あっ、あっちは遊園地だって」



再びはしゃぎだす真人君。

車は駐車場へと
静かに滑り込む。
 


後部座席のドアを
一気に開けて飛び出そうとする真人君。

叱りつける神楽さんの声。


慌てて真人君を追いかけて
手を掴み取る。


「ママに謝らないとな。

 ママは真人が心配だから怒るんだぞ。
 ママに謝ったら、肩車だ」



肩車の言葉に嬉しくなったのか、
真人君は神楽さんに小さく謝ると
すぐに俺のところへと近づいてきて
肩車をせがむ。



そんな真人君の行動が、
おふくろが何度も話して聞かせてくれた
ガキの頃の俺に何処か似ていて
思わず笑いそうになる。


やっぱり、コイツは
俺の子供なんだと実感できた瞬間。


約束通り、体をかがめて
肩車をした。


視界が高くなって喜ぶ真人君をしっかりと
片手で固定して、
もう一方の手は、神楽さんの手を掴み取る。

重なる手。
触れ合う温もり。


内緒の家族旅行。
一夜限りの家族旅行



最初で最後の
この時間を俺自身の中に
深く刻み込むように時間を過ごした。

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