【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

19.別れの前夜 -恭也-





花火の後、遊園地に近くのホテルへと
チェックインを済ませる。

案内された部屋には、
キングサイズのベッドが一つ。


寝室と寛ぐための部屋と、
二部屋が続いているファミリールーム。



はしゃぎ疲れた真人は、
俺の背におぶられたまま
このホテルまで辿りついた。



ベッドに降ろした途端、
目を開ける真人。




「すまない。起こしてしまったな」



そう言って、真人の髪に触れて
ここ暫くの習慣をそのまま辿るように
真人の手首に触れる。


手術から暫くが過ぎているとはいえ、
今日の旅行は急ぎ過ぎたか?

体調を崩さなければいいが……。




医師としての俺自身。
真人の父親としての俺自身。



今日一日、せめぎ合うように
俺の中の二つの心が
何度何度も衝突して来た。


だけど優先させるのは、
父親として、
真人の願いを叶えてやりたいと心から願う
その想い。



……父親になるって言うのは、
  そう言うものか……。


こんなにも、愚かに判断力を
狂わせていくものなのだろうか。




何時もと同じように行かない
俺自身に振り回されながらも、
真人の笑顔を見る度に心地よさと嬉しさを感じた。



「熱も出てないみたいだな。

 疲れただろう」




ベッドに横になりながら、
今も何度も何度も欠伸を続ける真人。


すぐにトロンと目が閉じていく真人。




「あらあらっ。真人。
 ちゃんとパジャマに着替えて眠りなさい」


手慣れた手つきで、
真人のパジャマを手にして
ベッドへと来た神楽さんは、
真人に着替えるように促して、
そのまま、着替え終わるのを見届ける。

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