【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


「あのね……。
 もう一つ、お願いがあるの。

 川の字で、ねむってもいい?」


小さく呟いた真人の願い。



戸惑ったように俺を見た神楽さんに
笑いかけて、
真人の髪に触れながら「あぁ」っと答えた。



真人をベッドの真ん中にして、
俺はその隣に、体を横たえる。


そんなベッドに、真人に促されて
遠慮気に体を横たえる神楽さん。



何とも言えない緊張感が襲う中、
真ん中に眠る悪戯天使は、
あっと言う間に寝息をたてる。


完全に眠りに落ちた真人を見届けて、
そっとベッドから抜け出す俺。


そんな俺の気配に、
神楽さんもベッドを抜け出して
明かりのついた隣の部屋へとやって来た。




「今日は有難う」



そう言いながら
ソファーに腰掛ける神楽さん。



「いやっ。
 お礼を言うのは俺の方だよ」



それだけ小さく告げると、
それ以上をほ自制するように
鞄の中から下着を手にして
シャワ-ルームへと向かう。



熱めのシャワーを目いっぱい出しながら、
体にかけ続ける俺は、
必死に『父親なのだと名乗りたい』その気持ちを
押し殺すように隠し続ける。



このお湯が流れるように、
俺自身に湧き上がる、その気持ちも
流れてしまえば、
これ以上何かを求めることもなくなるだろうに。





なかなか浴室から出てこない俺を心配してか、
気遣ってか、扉の向こうから微かに
俺の名を呼ぶ、神楽さんの声が聞こえて
慌てて、蛇口を閉じる。

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