【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「もうあがるよ」

「うん」





会話だけを聞いていたら、
本当の家族みたいに思える。



だけど……
それは決して、
言葉にしてはいけない
家族の形。


そんな苦しさを隠しながら、
俺は再び、彼女たちの元へと戻った。



バスタオルで髪を乾かしながら、
浴室の扉を開けて、鏡の方へと行く。

鏡の前にはセットされたドライヤー。




「神楽さんも入ってきたら?
 俺、髪乾かすから少しうるさくするし」

「うん。

 なら、シャワー頂いてくるわね。
 真人が起きたらお願い」


そう言って神楽さんは、
自分の鞄から着替えを手にして
シャワールームへと消えていく。




ドライヤーのスイッチを入れて、
髪を乾かしながら、
考えてしまうのは、
この時間を止めることが出来ないかなんて
馬鹿な事。




祐天寺の家族。

昭乃や勝矢と過ごしているよりも、
神楽さんや真人と過ごしている時間の方が
俺自身が、生きているように感じられた
今日一日。


神楽さんがシャワーから出てきたら、
もう一度、俺の本音を伝えたい。




全てをやり直したい。



もう一度、
止まってしまった俺たち家族の時間を
この先ずっと、動かし続けたい。




彼女を困らせるのを知りながらも、
辿りつく思いはそれだけだった。





本当の意味で、
真人に俺が父親なのだと伝えることが出来たら
真人は、喜んでくれるだろうか?



あんなにも父親の存在を求めてくれた
小さな我が子に、
一日だけの仮のお父さんとしてでなく
告げることが出来たら。


父として、
真人を力強く抱き続けることが出来たら。


どんなに幸せだろうか。




髪が渇いた後、ドライヤーをとめて
ソファーに持たれながら、
一人、目を閉じて思いを巡らせた。


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