【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

3.駆け行く想い -恭也-




その朝、TVに映し出された速報に
俺は驚きが隠せなかった。


速報の直後から、
地震の震度を告げるニュース。



朝食を食べながら、
入ってくる情報に
溢れて来るのは戸惑いと不安ばかり。



震源地とされる場所は、
前に知り得た、二人が住んでいる
その住所と近かったから。



震える手で携帯電話を握りしめて
神楽さんの携帯に電話をするものの、
すでに回線が混雑しているのか
繋がることはなかった。



そのまま次の電話番号を映し出す。



次に映し出すのは、
真人の主治医を長年任せていた知り合いの名前。



「多久馬、どうした?」


松崎への電話はすぐに繋がった。


「今、ニュース見た。
 そっちの状況は?」

「まだ何とも言えない。
 俺も家族を避難所に連れて行って、
 そのまま病院に向かう。

 当直の情報だと、
 すでに病院はバタバタみたいだ」

「そうか。
 真人君や、神楽さんが住んでる場所の
 情報は知らないか?」

「俺も見たわけじゃないけど、
 あの辺りは古いアパートが密集している。
 結構、建物が倒壊しているって言うのは
 連絡を受けてる」


建物が倒壊してる?


松崎のその言葉が、
俺の不安を広げていく。



「わかった。
 準備が出来次第、薬を持ってそちらに行く。

 悪いが、ヘリが着陸できる場所を
 手配して貰えないか?
 
 ヘリは緊急搬送にも使えるように
 伝達しておく」


そのまま電話を切ると、
俺は次に雄矢の連絡先を表示させながら
慌てて、玄関へと向かう。



「恭也、行くのね」




寂しそうな昭乃の声が
背中に突き刺さる。



それでもその声に、
引き戻されるわけには行かない。


神楽さんは、俺自身にとって
今でも大切な存在で、
あの場所には、彼女が大切に育ててくれている
俺の息子がいる。



「すまない。
 数日、帰れないと思う。
 
 勝矢と祐天寺の方は頼む。
 帰ってきたら、その時は君の言うとおりにするよ」




そのまま俺は玄関から飛び出して、
横付けされたセンチュリーに乗り込むと、
そのまま雄矢の元へと発信する。
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