【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




思わず自分の口から出た言葉に、
自分自身がびっくりしてしまうほど、
私にしては大胆だった。







「わかった……。
 一緒に居るよ。


 運転手さん、俺もここで降ります」



そういうと、彼は財布を取り出して
会計を済ませようとする。




「恭也君、お財布は私の使って」



そう言った私に、今回は財布を片づけさせて
自分の財布から支払いを済ませると、
私を支えながら、
家の方へと付いてきてくれた。





私たちの背後、
タクシーは静かに走り出した。







鞄の中から鍵を取り出して、
玄関のドアを開けようと頑張る。




だけど……なかなか、鍵が鍵穴に刺さってくれない。




私の掌の上から、
自らの手を重ねて
鍵穴に鍵をさすのを手伝ってくれると、
鍵はスムーズに開く。




玄関のドアを開けてくれると、
暗闇の中、私はふらふらと家の中に入った。







「お邪魔します」





私の後、彼の声が聞こえて
足音が続く。




リビングの電気をつけると、
そのまま正面から、
ソファーの上にぶっ倒れた。










脱力した体は、一気に重く感じる。


















『神楽さん……神楽さん……』








遠のいていく意識の中で、
微かに聞こえる恭也君の声。





『ほらっ、運んであげます。

 お布団、何処ですか?
 風邪ひいちゃいますよ』









布団?





「布団は……2階の突き当り。
 寝室なの……」





夢うつつ、
そうやって返事をする。






『2階の突き当りですね』







そんな声が聞こえて、
私の体は浮遊感に襲われる。







しがみ付いた先が、
温かくて……優しくて……
そのまま両腕を
彼の首の後ろへとまわす。


















「神楽さん?」







戸惑うような彼の声。












ドアがゆっくりと開いて、
暗闇のベッドにおろされた途端、

首に回した両腕に力をいれて、
彼を一気に引き寄せる。





体制を崩した彼の唇が、
私の唇へと触れ……た……。





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