【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

10.彼女の病 - 恭也 -





こんなにも夢中になったのは
初めて。




大学に通って、ピアノのレッスンを楽しんで
その帰り、彼女の仕事が終わるのを待って
神楽さんと出かけることが増えた。




最近のレッスン後の日課は、
食事に出かけること。



食事って言っても、
学生の俺には、
立派なところに行くことは出来ないし
食事に行っても……
彼女に奢られる始末で、
男のプライドも何もないけど……
それでも彼女と過ごせる時間は嬉しかった。



彼女と堂々と遊びたい。



その一心で……
親父たちの許可を貰って
バイトも始めた。



っと言っても不規則な俺たちが
手を出したのは日雇いバイト。



派遣に登録して、
そこから日雇いで行ける日に
仕事に出向く。


倉庫でカレンダ-を
梱包して発送準備をする日もあれば、
下着類を決められた箱に詰めていって
発送する日もある。



かと思えば……
勇生によって手配された現場は、
なんとぬいぐるみの中に入る仕事。



暑いは動きづらいはで、
大変な一日。


一番楽なのは、
塾やゼミの試験の採点バイト。


赤ペン一つで、
黙々と採点をしていける。


三人同じ現場で仕事するときもあれば、
ばらばらの時もあるけど
その日に収入が得られると言うのは
魅力的だった。



バイトで稼いだお金を
神楽さんとの時間のために
使うのは、なんだか気分もよかった。



大学とバイトの合間にも、
何度も彼女の家へと訪れては
体を重ねた。




今度は……
お守りをしっかりとつけて。



彼女を傷つけないように。




幸い、最初の過ちは……
二人の結晶が
誕生することはなかったから。



俺も彼女も
今も学生生活を過ごすことが出来てる。




親父に怒鳴られた日以来、
彼女の家に泊まるときは、
勇生か雄矢がアリバイ工作も
引き受けてくれている。




季節は流れ、彼女と付き合いだして
二度目の春がやってきた。



彼女は大学四回生。
俺たちは、医大の二年生。



ゆっくり講義は、
医学部らしく慌ただしくなっていく。




それでも彼女と繋がる、
ピアノのレッスンの時間は削れるものではない。



必死に時間を作って、
一週間に一度、彼女の教室へと足を運ぶ。


そしてその日も、いつものようにレッスンを終えて
食事に行った帰り道、彼女の身に異変が起きた。





電気屋さんを通りかかった頃、
彼女は電気屋のモニターの前で
ピタリと立ち止まって
動かなくなった。




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