【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

13.望まない再会 - 神楽 -







過呼吸の発作を起こした日以来、
私はあの人たちが出ていそうな
TV番組は一切見ないようにしていた。


発作起こした次の週、
いつものように恭也君は教室に来てくれた。




恭也君と過ごせる時間は、
私の心の穴を埋めてくれる
大切な幸せの時間。



そんな生活も長く続いてくれなくて
今は、一週間に一度の楽しみも
恭也君のお母さまが脳の病気で倒れて
入院してしまって、レッスンは休み。






逢いたいのに逢えない時間は辛くて、
寂しさを際立たせる。


逢いたい。

声が聴きたい。





だけど……そう望む欲求も
彼の今の現状を気遣うと
踏み込むことなんて出来なかった。






恭也君の家に
押しかけることなんて出来ない。



かといって……今の現状で、
「逢いたい」と伝えることも
私の我儘だから……心の底にギュっと閉じ込めた。




逢えない時間は……
二週間を過ぎようとしていた日曜日。





出社した店内は、
何かの準備に追われているのか
朝から慌ただしかった。







「おはよう。
 
 何?今日は誰かのサイン会でもあるの?」





同じくピアノの講師をしている同僚に
話しかける。






「来るのよっ、結城さん。

 急きょ決まったの。
 今回ばかりは、店長よくやったーって感じよね」


っとその子は、
もう一人のピアノ講師とテンション高くもの上がる。








テーブルが一階のサロンコンサートを行う
イベントフロアに用意されて、
その上には何本ものマジック。


そしてその隣には……
大量のサイン会に来る人たちに関連した
楽譜やCDがぎっしりと並べられている。




その楽譜の表紙に映る
写真を見て、私は固まる。





「結城さん、どうする?

 私、買っちゃった。
 ほらっ、藤本親子の最新楽譜。

 ここに名前と一緒にサインが
 貰えたら、もう文句ないんだけど」

「ホントホント。

 あの世界的ピアニストの
 結愛がくるんだもんね」

「結城さん、聞いてる?

 今回来るのは、母と娘みたいよ。
 最近、ワイドショー賑わせてるものね」







声のトーンを高くあげて弾むように
話に盛り上がってる傍ら、
私は一人、テンションが盛り下がっていく。






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