【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




触れる唇。





「おはよう……神楽さん」





悪戯な笑みを浮かべながら、
ベッドから起き上がる彼。





甘い生活とは行かないけど、
節度ある距離を保ち続けながら
過ごす時間。







彼と彼の家族と過ごす時間は、
私が失っていたものを
ゆっくりと取り戻させてくれて
彼の家と、自宅のを往復しながら
ピアノと向き合う時間。




どうにか感覚を取り戻せた頃、
教室の謹慎がとけた。






教室の仕事が入りだすと、
またあの家に帰らないといけないと
覚悟していたのに、
彼の両親の好意で
もう少しこの一つ屋根の下
過ごせるようになった私。






「行ってらっしゃい」






朝食の後、
私たち二人を送り出してくれる
恭也君の両親。




行く道は違うけど……
帰ってきたら、
彼は私の隣で微笑んでくれる。









そんな時間が今は
とても優しくて暖かかった。













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