砂のオベリスク~第七大陸紀行~

路地裏のベレー帽








「まさか、幻の町でこんな真似をするとは」





 暗い裏通りには、おそらく見たことのないだろう珍しい食材が、無残な姿でそこら中に転がっていた。

野菜の端切れ、魚や獣の骨などが突き出た大袋の山から流れた汁が地面にしみ込み、怨念のように悪臭を放ち、羽虫を寄せつける。

私はなるべく呼吸をしないように心がけながら、食べられそうなものを探した。しかし、どれもこれも腐り果てて、とても口に入れるどころではなかった。



 裏口の戸が開いたのは、ゴミを漁り始めてあまり経たないうちだ。

見習い風のコック姿の若者が、うんざりとため息をついてぱんぱんに膨れたゴミ袋を投げ置く。

そのとき、私はその若者と目が合った。



「野良猫め」


彼はそう鼻で笑い、顔をしかめて店に戻ろうとした。私はすがる思いで声をかける。

 
「待ってくれ。君には俺のことが見えるのかい……」







 言い終わらないうちに、私の背中をすり抜けて一人の女性が現れた。










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